Le Rouge et Le Noir

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Valediktion(4)
一瞬、緊張が走る。が。
「や。元気?」
身構えた彼女の後ろから聞こえてきた声は、存外に呑気で気だるげな、それで居て澄んだ少年のような美声であった。たった一言で、天使とも悪魔ともつかない甘ったるい香りを漂わせられる者は、世界広しといえども、恐らくは彼しか居ないだろう。
「え・・・ロ、ロキ様!?」
振り返った先に立っていた、狡猾なる智者―トリック・スター―と称される、天才的な悪知恵を持つ金髪碧眼の男の名を呼ぶと、彼はニッと笑って見せた。まるで少年のようなあどけない笑みは、彼の悪戯を誰もが許す為に、予め計算しつくされた笑みにも見える。だが、やはりそれは天然の表情だったに違いない。何の嫌味もないその笑みに、ノルンの警戒心も一瞬のうちに吹き飛んでしまった。と同時に、どっと疲れが押し寄せる。
「もう・・・脅かさないでください・・・。私はてっきり、侵入者かと―――」
「その通りだよ、僕は侵入者さ」
彼女の言葉を遮るように、彼は肩を竦めながら、悪びれもせず告げる。『この男の特徴と言ったら、屁理屈をこね回して、人を馬鹿にして無邪気に笑う、まるで子どもみたいな奴だ』と、とある堅物がそう評していたが『うぅん、確かに』と頷かざるを得まい。ノルンは頭を抱えながら、何とか反論をしようとする。が、すぐにロキのにこやかな表情を見て反撃を諦めた。勝てない。多分、一生かかっても勝てない。
「相変わらず、お口の方は達者なのですね。で、その侵入者さんが一体、何の用で私のところに?生憎、御酒は切らしていて、御紅茶しかないのですけど」
 ロキの言葉に逆らう事を諦めたノルンは、淡々と彼の流れに沿って話を進める。座ったまま振り向いた姿勢のノルンがまじっと彼の顔を見つめると、さすがの美男子も『敵わないな』とあっさり白旗を振って、場所を移動して椅子に腰かける。ノルンの真正面だ。
 こうして真正面に据えて、改めてロキという男を観察してみると、実に興味深い事が分かる。着ている服は質素で飾り気のない、濃い灰色のシャツとベージュのズボン。一応、神らしく飾りのようなものを付けているが、何処の世界の宗教なのだか分からない実に不可思議な十字型である。ろざりお、というらしいが、本来は手に握るものらしい。首から掛けている辺り、実に背徳的ではあるが、そもそも崇め称える対象が居ない信仰というのだから、ますます分からない。すべてがロキの口から出た言葉なので、本当かどうかも疑わしいが、とりあえず彼はそれ以外の装飾品は一切付けようとしない。それで十分、彼は気品を漂わせているのだから、不思議なものである。
背丈はそう高い方ではないけれど、さりとて低い訳ではない。筋肉質ではあるのだろうが、他の神々のように屈強な体つきをしている訳ではなく、どちらかと言えば華奢である。また、それ以上に貌の見目麗しさから優男にしか見えず、戦士族とも呼べる巨人の血を引いているとはどうしても思えない。要するに、頼りないし、これといった強みが無い。ぱっと見で目を惹くのは、透き通るような白い肌と夕日に照らされた稲穂のように輝く金色の髪、そして獲物を射殺す視線を持った、深い碧色の瞳。
少年のようでもあり、少女のようでもあるそれらを特徴というなら特徴だが、本来ならとても褒められたものではなかった。ただ、それらも含めてすべてが<嘘>のような雰囲気を持っているのが妙に神秘的で、それが故に気品を持っているのが、このロキという男であった。
「僕がそんなに気になるかい、ノルンちゃん。何なら馬にでも化けて、君を背に乗せ優雅にその辺りを駆けても良いんだけど」
「お断りします」
 ただ一つだけ残念なのは、それだけの気品を持ち合わせながら、この男が実に調子の良い軟派な男だという事実である。アースガルドで、彼に泣かされていない女性などいないと噂される程、彼は大勢の女神の心を弄んできたとは有名な話だ。この眼前に座る、ノルンを除いて―――――。
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| 長編 | 22:05 | コメント:0
Valediktion(3)
第1章:Eine Ouverture des Krieges


 アースガルドは、澄み渡る青空が広がっていた。一点の曇りもなく、かといって照り付ける様な日差しという訳でもなく、実に穏やかな天気が大陸全土を包んでいた。
 彼女は、そんなアースガルドの中心部―即ちヴァルハラ宮殿のある高台から少し離れたところに位置する、大樹ユグドラシルの下に居を構えていた。このユグドラシルは、少なくとも森ひとつ分に匹敵する大きさを誇る巨大樹であり、その重みを支える為に幹が途中から地中に埋まって幾重にも分かれ、根の役割を果たしている。だが、それはあくまで幹であって、根ではない。何故ならば、さらにそこから張り巡らされた根が、世界の隅々まで伸びて九つ世界すべてを支えているからである。だから正確に言えば、そのユグドラシル樹の太い幹の傍に、彼女はひっそりと暮らしているのだった。
 名をノルンというその女は、人で言えば少女と言っていい程の幼い容姿で、華奢な体つきである。しかし、幼い風貌ながらも鼻は高く、顎はほっそりとしており、やや少年のようにも見える端整な顔立ちに白銀の長髪が風に靡く様は、妙に大人びても見え、また、淡く血の色を映した切れ長の瞳がその真っ白い雪のような肌の中、一際目立っており、左目の縁にある小さな泣き黒子も相まって、およそ少女らしからぬ妖艶さを醸し出していた。一言で言うなら、美人である。
 彼女は、アカマツで出来た小さな家の縁側に置いた、木製の椅子に腰掛けていた。お洒落な模様の入った、彼女のお気に入りだ。
 家の内装はしっかりしているが、その家の中で過ごす事が殆ど無い彼女にとって、その場所に自分の最も愛用するものを置いておく事は、ささやかな楽しみである。椅子の他にも、二人掛けの丸いテーブルや観賞用の植物、さらには、ちょっとした食べ物や葡萄酒を入れておく戸棚まで、彼女自身が退屈しないで済むように、其処にはありとあらゆる工夫がなされていた。実際のところ、其処に無いのは、寝台くらいのものである。そこまでしておくのには、ある理由があった。
 彼女は遥か昔より、世界を支え続けるユグドラシルを見守り、世話をしてきた。また、ユグドラシルと対話をする事で、世界の状態を把握し、常に主神オーディンに、世界の繁栄や発展の為の注進をしてきた。つまり、彼女はその華奢な体に、世界の命運を背負って今日まで生きてきたのである。
 アースガルドは兎も角として、他の世界の情勢はとても変わりやすい。常に今を知り、世界を正常に保つ役目を果たす為には、眠りにつくほんの数時間を除いてユグドラシルと共にあるより他に、選択肢は無かったのだ。だから彼女は、家の外に物を置き、殆どを家の外で生活をしているのであった。時間を無駄なく、ユグドラシルとの対話に費やす為に。
 今も、彼女は椅子に腰掛け、ユグドラシルに話し掛けていた。

「栗鼠のラタトスクは相変わらずね。毎日毎日、天辺に上っては悪口を伝え、一番下まで降りては悪口を伝え、ご苦労な事。私なら、そんな仕事うんざり。でも、あなたにとっては、在る事自体うんざりなのですよね。悪賢いニドヘグ竜や悪戯好きの小鹿たち。勿論、生物が生きる上では仕方の無い事だけれど・・・・あなたの呻きを聞いていると、私も胸が痛みます。其れでも、黙ってこうやって今まで、在り続けてくれているあなたって、本当に偉大な存在だと思います」

 彼女のユグドラシルとの対話は、世間話と労わりから始まる。と言っても、ユグドラシル自身が声を発する事は無い。彼女とユグドラシルの対話とは、いわばノルンの声に反応したユグドラシルが、自らの伸ばした根や幹や葉を通して、彼女の思考に直接的に九つ世界の映像を送っているに過ぎないのである。それを知っていても、ノルンは必ずユグドラシルを労い、目を瞑りながら、楽しそうに喋るのを止めない。まるで、誰かと本当に会話をしているかのように、彼女のユグドラシルに対する語りかけは、自然なものだった。いや、彼女にしてみれば、本当にユグドラシルと語り合っているのだろう。ユグドラシルは、そんな彼女に応えるかのように、今日も彼女に念糸を送る。変わらない日常。いつも通り・・・・

「?」

 急に、今まで流れ込んでいた景色が途絶え、真っ暗になった。突然の事に驚き、ノルンは思わず目を開ける。ユグドラシルとの対話が途切れるのは、彼女が自ら望んだ時か、理論上、彼女とユグドラシルの念糸の間に何らかの邪魔が入った時だけである。そして、今まで後者の事など有り得なかった。それ程の事をいとも容易く行える者が、この地に訪れる事がそもそも無かった為である。しかし、今現実に起こっている事は、ノルン自らが望んでも居ないのに、ユグドラシルとの対話が途切れてしまったという事実である。彼女が驚くのも、無理は無かった。
| 長編 | 21:13 | コメント:11
Valediktion(2)
 かつて、終わりのない楽園と呼ばれた世界が在った。

 九つ大陸の頂点に位置し、世界の中心たる大樹――偉大なるユグドラシルの頂上に最も近き場所にあるその大陸の名は、アースガルド。神々の王國。そう呼ばれる事もある程に、華やかな大陸。そして事実、其処は神々の住まう神聖にして不可侵の絶対的領域であった。


 例えば、人間の住まうミッドガルド大陸において、神々がアースガルドとミッドガルドを行き来するのは容易い。何故なら、神だからだ。
 神々は、しかし最初のうちはミッドガルドに全く興味を示さなかった。自分達の遊びに満足していて、人間の大陸に魅力を感じていなかったからである。ある神が気まぐれから聖人の姿を模して人間界に紛れ込まなければ、ミッドガルドは人間や他の動物の目に見えない妖精の國からの来訪者を別として、不可侵の領域であったに違いない。だが、その神が人間界に干渉したのを始まりとして、神々の考え方は変わった。特に、主神が思いのほか関心を寄せたことで、神々の間ではこれを軸に様々な遊びが考案され、その二次的なものがアースガルド全土に人気を博した。その結果、神々の関心がミッドガルドという未開の大陸へと向けられる事になったのである。その瞬間から、ミッドガルドは神々が支配しているも同然となった。人は、目に見える奇跡を受け入れる以外に取るべき手段を持たなかったのである。

 例えば、光の妖精の住まうアールヴヘイム大陸において、神々が行き来するのは容易い。ある神を王とする大陸であったから、神々と友好的な関係にあり、いつでも神々を歓迎してくれるからである。それが賢明であると、彼ら妖精達はよく知っていた。そうしておけば、アースガルドにしかない最上級品のご馳走や酒が手に入る。狩猟が苦手な上に、他種族との争いを嫌う為、滅多に≪肉≫にありつけない彼らにとって、神々のご機嫌取りは悪くない話だった。

 例えば、巨人の住まう怖ろしいヨートゥンヘイム。巨人と仲の良くなかった神々にとって、至難ではあったが行き来の出来ない場所ではなかった。己の力に絶対的な自信を持つ神や好奇心旺盛な神にとって、巨人の國は腕試しやちょっとした冒険にはもってこいの場所であった。尤も、巨人達と神々の仲は最悪であった為、見つかれば神々といえど無事では済まなかったが。そのスリルが快感だと、懲りずに何度も足を運ぶ変わり者の神も居た。

 そうやって、ある時は跪かせ、ある時は手なずけ、それが出来なくても最悪の状況をいとも容易く打破するという、離れ業を難なくやってのける神々でなくても、他の大陸に足を踏み入れる事は決して不可能ではなかった。小人は自ら人間の大陸に足を踏み入れる事はしないが、魔法を使って人間を自分達の國に連れてきてからかうのが好き事だし、人間は海で遭難した時、度々、巨人の國に辿り着いた。同じ様に、偶然にしろ意図的にしろ、ある大陸の者が他の大陸に辿り着くという例は幾らでもあった。どの大陸も存外、異大陸からの来訪者に対して寛容的(というより無関心)で、大陸に仕掛けを施そうなどとは露ほども考えなかった。故に、神々を数に入れないにしても絶対不可侵の大陸など存在しなかったのである。


 だが、神々の大陸に関してだけは全く違った。忘却の彼方に消え去った、伝説のヴァン神族が國ヴァナヘイムは兎も角、アースガルドは確かに其処にある。しかし、違う大陸の者が侵入する事は絶対に出来なかった。高い城壁が大陸をぐるりと囲っていたのである。それはもう、天まで届くのではなかろうかという程の高さで、一部の隙も無いように見えた。それは一人の石工と一頭の馬によって作られた、何の飾り気も無い、しかし、どの様な力を以ってしても破壊されないという特殊な壁。その男の仕掛けた複雑なルーン魔法文字の解除によってのみ、存在しない門を開け、中に入る事が出来るという仕組みであった。従って、神々以外がアースガルドに立ち入る事は絶対に出来ないのである。恐らくは巨人族で唯一、神々に怖れられている魔術王ウートガルドでさえ突破する事は出来まい。何せヨートゥンヘイム一の匠の最後にして最高の建築である。神々との賭けに負けさえしなければ、彼はその事を大陸中に言いふらしたであろう出来栄えだった・・・・いや、それは正確ではない。神々に謀られた事で逆上して正体を現さなかったら、彼はその事をヨートゥンヘイムで話して回ったに違いないからだ。

 そういった訳で、神々の大陸を直に見た者は神以外誰一人として居なかった。光の妖精や小人達が神の持ってきたものを見たり、神から伝え聞いたりしたものが、すべてだった。
 其処は年中が春のようで、夏のようで、また秋のようで冬のような場所であり、何をするでもなしに勝手に作物は育ち、たわわに実り、収穫の時を迎える。一日の流れが緩慢で、急速で、朝に芽が出れば昼には実り、夕暮れ刻に陽の光に照らされて黄金に輝く稲穂は、常にある。牛や鶏、豚や魚、そういった動物はたとえ命を失ってもすぐに新しい肉体を授けられる為、幾ら獲ったところで不足する事はない。山羊乳で出来た酒や葡萄酒を造ればたちまちに百年を超える時、寝かしつけた様なまろやかな味となり、それは神々の宴が終わるまで無くなる事はない。
 だからこうして、君達にあらゆる食材を分け与える事が出来るんだよ、というのが、主の口癖だった。目が合えば魂を奪われてしまうのではないかと思うくらい不思議な輝きを放つ碧眼はいつも真剣で、主は嘘をついているようには見えなかった。事実、彼の言葉は何れも真実だった。光の妖精達に訊けば、必ずこの様な答えが返ってくる。
 或いは、ひどく賢くルーン文字を操る事に長けた老獪なる神と交流の深かった小人――彼らはしばしば重要な頼みごとをされる程に信頼されていた――に言わせれば、黄金の時間を有する神々は、昼間の殆どを談笑と遊びで費やし、夜の殆どを再び訪れる昼を待つ為の宴会で費やす優雅で自由な生活をしようと思えば出来たし、ニダヴェリール(小人達の大陸の名前である)に度々訪れる偉大で崇高なる者の様に、己の知を極めることにだけ気を使っていれば良いという暮らしも思うがままであった。故に小人達は、神々がそうやって思い思いの日々を過ごし、いつまでも終わる事のない生命の悦びと輝きを満喫することに生涯を捧げているのだ、と証言するに違いない。

 どれも、確かな情報ではなかった。だが事実、光の妖精や小人が言う世界が、神々の大陸には広がっていた。苦労や努力という、おおよそすべての大陸の生物が味わい続ける類の、生きる為に必要な苦痛に満ちた運命をアースガルドは共有していなかったのである。嘘偽りのない、終わりなき楽園・・・・。



 そうであったことを、私はよく知っていた。何故ならば、私はアースガルドの住人だからである。より正確に言えば、そのアースガルドを統べる王・・・・。我が名はオーディン。
 全知全能にして死と戦を司る最強の戦士。それが、他の者が私に下す評価であった。が、実際の私は完璧には程遠い存在であった。
 
 確かに、私は知を求め続けた故、多くを知った。今でも、アースガルド以下九つ世界の事は誰よりも知っている自負はある。だが、それでも全知全能には程遠かった。
 私の統べる、この終わりなき楽園であった筈のアースガルドが今、終わりのときを迎えようとしている事からも其れは明らかだろう。私が全知全能の存在であれば、未来を予知しアースガルドを永遠に繁栄させる事は容易かった筈だ。だが現実は、未来を見通せず、全知全能では無かった故に最愛の息子を二人も失い、息子を世界から奪った弟を復讐心から殺そうと企む私のせいで、世界が終わろうとしているのだ。皮肉にも、未知は私のすぐ傍にあった。私は、無力だった。

 「もし此の戦でアースガルドが滅びなかった時は、私の事は愚神と評価し直して欲しいものだな。私はただの修羅であり、戦でしか輝けなかった愚かな死神なのだから。」

 今にして思えば、息子のバルドルが神々の王になるべきだと私が思ったのは、薄々、自分自身の価値の無さに気付いていたからなのかも知れない。私は私であり続ける為に、常に何かと争っていなければならなかった。だがバルドルは、彼は争いを嫌い、すべてを慈しみ、すべてを愛した。故に皆から愛された。彼ならば、平和なアースガルドを永遠に繁栄させる事が出来たに違いない。逆に言えば、平和になってしまったアースガルドにおいて、私という存在はもはや必要不可欠なものではなかったに違いないのだ。それなのに、私は王座に居た。もう少し早く手を打っていたら、この様な事にはならなかっただろうに・・・・・すべては、私のせいなのだ。だが・・・


「すまんなぁ・・・。それでもやはり、私はお前の父親を許す事が出来んのだ。私はバルドルのように、寛大な男ではない。お前に怨みはない、お前はよくやってくれている。誇りに思う。それ以上に、我が娘も同然なお前を悲しませたくはない・・・だが!だがな・・・・」


 私から希望を奪った償いは必ずやして貰うぞ、ロキッ!!



 彼は、アースガルド全土を見渡せる高台にあるヴァルハラ宮殿の一室で椅子に座り、過去を懐かしみ、記憶を呼び覚ましていた。懐かしき思い出。栄華を極めた時代。輝かしい日々。
 窓の外を覗くと、今でも記憶の中に残る美しい景色は其処にあった。だが、彼の心に映るのは、荒れ果てた大地が広がるばかりのアースガルドの姿だった。それは彼の望む光景。近く、巨人族を率いて復讐にやって来るであろう弟、ロキとの戦。それは今までになく激しいものになるであろう事を、彼は知っていた。そして彼は、その戦でアースガルドが血に塗れる事を心待ちにしているのだった。懐かしい思い出も、すべてはある一点の悪夢へと繋がる。であるならば、懐かしさを思わせる世界そのものが終わってしまえば良い。其れは、今の彼にしてみればごく当たり前の考え方であった。其の思考が故に、彼のたった一つの灰色の瞳は、『現在』の美しいアースガルドの姿を捉える事が出来なくなっていたのである。長い白髪を右手の指先で弄びながら、隻眼の老王は妖しい笑みを浮かべた。彼は今、暗い闇の中にある未来を見据えていた。

復讐に憑かれた瞳で以て、真っ直ぐと・・・。
| 長編 | 22:02 | コメント:0
Valediktion
序章:Eine Stimme der Traurigkeit




愚かしくも愛おしい 今は亡き國の民達よ
汝らは何を求め 何処に向かって彷徨い歩くか

行けども行けども
其処に在るは戦火の爪痕残る荒野

漆黒の大地は其の姿を保ち続け
汝らを嘲笑う様に横たわる事によって

かつて栄えた王国の終焉の刻
汝らが垣間見た絶望を 繰り返し味わわせてきたのではなかったか


愚かしくも愛おしい 亡國の民達よ


汝らは何ゆえに 嘲笑され 罵倒され
打ちのめされても尚 幾度と無く立ち上がり

此の地を彷徨い 歩き続けるのだ
救いなど何処にもありはしないというのに・・・



Der Meister der Stimme der Traurigkeit...
| 長編 | 21:49 | コメント:0
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