Le Rouge et Le Noir

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ほんのひと握りの幸せを感じたい(3)
シャワーから溢れる温かい飛沫が、身体に沁み渡る。
外では相変わらず路面を打ちつける雨と強い風、そして時折、呻くような雷の音が聞こえていたが。


今はもう、そんなの関係ない。



たっぷりと泡立てたソープを、雪のように白い肌に馴染ませるようにゆっくりと全体に拡げていくと、
華奢な彼女の身体は、瞬く間に泡で満たされていった。

泡はさらに、肩程で整えられた彼女の髪の先まで優しく包み込む。
そこまで達したところで、今度は、頭の先から浴びるシャワーで一気に流してしまう。


そのまま、目を瞑ったまましばらく浴びて、
身体がほんのりと火照り始めるのを確認したところで、彼女はシャワーを止めた。
部屋全体に立ちこめる湯気とともに、すっかり彼女の躰からも蒸気が立ち上っていた。

しかし、そのもやも次第に消え、彼女のすべてが露わになる。


お世辞にも誇る程のものは何も持ってなかったが、
細い肢体に僅かばかり乗っかった女性らしく柔らかな部分は、

温まったおかげで、ほんのり赤みがさして、艶っぽく光っていた。


両手で髪をかきあげ、ふぅ・・・と息をついて目を開ける。



アーモンド形の瞳に、ほっそりと、筋の通った綺麗な鼻。
人によってはややきつめに見えるかもしれないが、彼女は実に端整な顔立ちをしていたし、
こじんまりとしてはいるが、スタイルも良かった。


一言で言うならば、彼女は本当に美人であった。
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| 短編 | 20:57 | コメント:0
ほんのひと握りの幸せを感じたい(2)
やっとの思いで家に帰り着いた私を待っていたのは、両親の温かい言葉





などではなかった。
思わず、ため息が出る。何よ、もう…



私の家は、駅から20分くらいの距離にある住宅街。その一角にある、築5年のまだ新しい一軒家である。
慎重に行動し過ぎるくらい真面目で臆病だったお父さんが、ある日株に目覚めてしまい、

「このまま会社に居ても得るものなんて無い」

とか言いだして、務めていた会社を早期退職。
これにはさすがのお母さんも面喰っていたけど、さらに私たちを驚かせたのが、
退職金を頭金にローンを組んで建てた、小さいながらオシャレなこの我が家だ。

何の変哲もない住宅街に、
ポツンと異人館のような西洋風の我が家が建っているのが実にアンバランスで。

実に不思議と、周囲に溶け込んでいた。


その我が家の門をくぐって玄関に差し掛かったところで、家の奥からお父さんとお母さんの怒声が聞こえてきた。
時たま、何かが割れる音もしている。ああ、皿だ・・・


「ただいまぁ・・・」

気だるく、両親に聞こえるか聞こえないかくらいの声で、家の中に入る。
幸い、こちらには気付いてはいないようだ。こういう場合、その方が都合が良い。


が、家に入る事によって、その喧騒はより具体的に内容が漏れ聞こえてくる。



「あんたが家でゴロゴロしてたら、掃除の邪魔になって仕方ないって言ってんのよ、いい加減家から出る事を覚えなさいよ!!!!」
「誰のおかげで飯が食えてると思ってるんだ、大体だな、俺がここで株を見ていなかったら、今頃我が家の株は大損で大借金してるところだぞ!!!」
「大体、あんたがそうやって株にハマらないで、真面目に仕事をしていればこんな事にはならなかったんじゃない!!」
「それじゃあこの家はどうやって買えたというんだ!これこそ、俺のおかげ―――」
「別にこんな家なんて誰も欲しいなんて言ってないわよ、もういい、分かったわ、私出ていく!!!」



ドタバタと足音を立てながら、母親がこっちに近づいてくる。まずい。



「あら、帰ってたの?何その格好は、こんな雨の日に傘もささないで帰ってきて。私は知らないわよ。聞いての通り、私は出て行きますからね。後の事は勝手にして頂戴」

「あの・・・お母さん、今日は私の誕生――――」



バタン!


言い終わるのを待つ事なく、虚しく玄関の扉が閉まる。



はぁ・・・・
なんでこうなんだろう・・・・いっときで良いから、家の中で、幸せな瞬間が欲しい・・・・




夢見た光景なんて所詮は夢だったのだと、
すっかり失望しながら私は、お風呂場へと向かった。

涙と雨でぐしゃぐしゃの顔を、
ずぶ濡れの服の袖で意味もなく拭きながら。

廊下に雫を垂らしながら。



ああ・・・後で床も、拭いとかなきゃな・・・・


無造作に洗濯機に着ていた衣服を投げ捨てながら、そんな事を考えた。
ともかく、ようやく衣服の纏わりつく嫌悪感からは、解放された。それだけが救いだった。
| 短編 | 21:00 | コメント:0
ほんのひと握りの幸せを感じたい
雨が降り始めた。最初はポツポツと。
しかし、どんより曇った空から落ちてくる粒は、次第に大きくなり。

路面は瞬く間に染まっていった。

雨足は強まる一方。
車が水を跳ねる音が耳障りになるのに、そう時間はかからなかった。


今日は一日晴れの予報だったのに。
雨雲も無い筈だった。それどころか、雲すらない快晴だとすら宣っていた。

だから、傘なんて持っている訳が無かった。念の為の必要も感じなかったから。

でも現実は、雨。しかも、これは多分止みそうにない。それどころか…


私は、駆け出した。早く家に帰らないと…


嫌な予感は的中した。


風が出てきた。やばい、結構強い風だ。
ちょっと気を抜けば、バランスを崩すかもしれない。

これじゃあ、傘があっても関係ないかな。

半ば自虐的に肩をすくめながら、私は風に負けじと走った。


バシャバシャと、不快な音が足元から響いてくる。

風に煽られる事よりも、
跳ね返ってくる水しぶきに濡れる事よりも、
雨に濡れて肌にべっとりくっついた衣服の不快感よりも、
折角買った新しい服が、雨に濡れてグシャグシャになるショックよりも、


歩いても走っても足元から聞こえてくるその音が、何よりも私の機嫌を悪くした。


「なんで、こんな日に限ってこんな天気なのよ…!」


今日は私の誕生日だった。そして、今日は休日。
すっきりと晴れ渡った青空に、お日様。絶好の外出日和だった。


だから、友達を誘ってランチして、お買い物して…
ついさっきまで、とても楽しい時間を過ごしていた。


そんな、幸せな時間に浸って浮かれていたさっきまでの私を、
あざ笑うかのように水溜りが音を立てて私に纏わりついてくる。

そして、歩道との境もない狭い道路、
時たま、車が跳ねた水飛沫が、私に横殴りで襲いかかる。


ああ、もうサイアク…私をバカにしているの?!


もう全身がずぶ濡れで、何がどうとか、どう気持ち悪いとか、
そんなの関係なくすべてが気持ち悪くて、冷たい水に体温を奪われて、たまらなく寒かった。



でも、泣きごとばかり言ってられないから、懸命に走った。

大分走った。

とりあえず、家を目標に。


たまらなく長い時間走ってたように思うけれど、多分ほんの5分くらいのものだとも思う。
息が上がり、肩で息をしている自分が少しだけ情けない。それでも、結構な距離ではあるよね。

と自分に言い訳をしながら、少し歩を弛める。ちょっと深呼吸。


やっと、家まであと少しのところまで辿り着いた…


あとちょっとの辛抱…。
空を見上げる。雨は私に容赦なく降りかかってくる。

ため息をつく気にもならなかった。


でも、何が何だか分からなくなった不快な感触も直に終わる。
家にさえ辿りつけば、苛々も少しは落ち着くだろう。

何しろ、今日は誕生日。


きっと、お父さんお母さんは、私の事を心配してくれている。

急に雨に降られた娘を案じながら、
少しでも私の気が晴れるように、美味しいものを準備してくれてるに違いない。

きっと優しい言葉をかけてくれる。そうに違いない。


「雨が急に降って、大変だったな」ってお父さんなら言うだろうか?
「風邪引くわよ、お風呂に入りなさい」ってお母さんなら言うだろうか?

何にしても、きっと私を慰めてくれるだろう。
そして、私は愚痴を言いながらも、今日の出来事を話すんだ。



だから、さぁ、早く家に帰ろう!
そして、まずお風呂に入ろう。


躰に纏わりついた衣服を脱ぎ棄てて、
冷え切った身体を温めよう。

そして、嫌な事をすべて忘れよう。
それからはまた、幸せな時間がきっと待っている。


そう思うと、少しだけ気が晴れて、足に力が入る。
駆け出した足に跳ね返る、バシャバシャという音は相変わらず不快だ。

でも、足取りはほんの僅かだけど、軽くなったような気がした。


あと少し…


その想いが私を再び走らせて、私を待つ我が家へ続く道を急がせた。
| 短編 | 23:01 | コメント:0
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